古代エジプトの繁栄と現在のエジプト わたしが、エジプトを訪れた日本の皆さんをご案内して古代エジプトの偉大さを説明したあとかならず質問されることは、そんなに偉大だったエジプトがなぜ現在のような国なのですかということです。 皆さんの国日本は、日本という国ができてから、2000年間、一度も外国に征服されたことはありませんね。そして何百年も支配されたことはありませんね。この広い世界で、外国に占領されないで2000年間、自分の国を作り続けられた国は、日本の他にはないのではないかと思います。それは考えられない驚きです。 2000年間、外国に占領されず、支配を受けなかったことが、現在の日本の姿そのものであるとも考えられます。それがいいこととか悪いこととか言うのでなく、占領された歴史を持つ国民とは異なった日本人のものの考え方、行動があるのではないかと思うのです。 5000年の長い歴史の中で、エジプトは、征服され支配される歴史の連続だったのです。リビアに、シリアに、ヌビアに、ペルシャに、ギリシャに、ローマに、アラブに、トルコに、フランスに、そしてイギリスにと、数え上げても息が切れるほど多くの外民族によって約3000年間征服され支配され続けてきました。エジプトは3000年前から、自分たちの文化を継承できない状態に置かれていたのです。 宗教的には、クレオパトラの時代までは古代エジプトの宗教が崇拝されていましたので、外国人に支配されていたとはいえ精神的には古代エジプトを継承していたと言えます。しかし、クレオパトラの死後、ローマに支配され、キリスト教の時代になり、それからイスラムの時代になって既に1400年経って、人々が信じるものも変わっています。何回かの征服によって、住んでいる民族も変わってしまいました。 イスラム教に改宗しなかったコプト教徒だけが古代の血を受け継いでいると言う人もいますが、キリスト教がエジプトに入る千年前から既に混血に混血が重なっていた訳ですから 必ずしも彼等が古代エジプトの子孫であるとも言えないのです。 普通、300年間外民族によって支配されると、その国の文化は根底から無くなると言われています。例えば1517年に、オスマントルコに占領され支配されたとき、エジプトの人々のほとんどはトルコのために農産物を生産するだけの家畜のような存在に置かれ、技術のある人はエジプトの技術の発達を恐れて手首から切り落とされるか、または、国外に連れて行かれたと言われています。優れた考えを持つ人は危険人物として殺されました。 オスマントルコに占領され、フランスのナポレオンがエジプトを征服するまでの約300年間、エジプト独自の文化財はなにも残されておりません。クレオパトラの死後、エジプト人のものとして残されているものは、ローマ帝国や東ローマ帝国からの迫害の陰で残されたキリスト教徒の貧しい遺品だけです。イスラムの文化財はエジプトを支配したアラブ民族が残したものです。 イギリスに占領された1882年から1922年の王制として独立するまで、イギリスはエジプトにおける教育管理権を取り上げ、エジプト人を無学の状態にし、労働力だけを搾取していたのです。そのような状態の中で、歴史を学ぶ機会がある訳もなく、教養を身につける機会はまったくありませんでした。社会がどうなっているかさえ知ることはできなかったのです。 知ることができたのは、太陽が昇り日が沈むまで、そして死ぬまでひたすら働き続けなければならないということだけだったのです。人間らしい生活など考えられえませんでした。暗闇の中で生きてきたのど同じです。何も知ることも見ることもできなかったのです。何を望んでも無駄なことだったのです。 そのような3000年間の迫害の歴史を経て、1952年の革命を迎え、今更3000年、4000年前の、ここに住んだ先人のことを学んでも、それはあまりにも遠い過去のことです。3000年という空白があるだけなのです。文化の継承も民族の継承も、伝達も発展もありません。エジプトのエジプト人による国作りの歴史は、ほんの1952年から始まったに過ぎません。 エジプト人によるエジプトの国作りが5000年間続いてきた訳ではないのです。 多分2000年間、一度も外国から支配されなかった国の人々からはとても理解できない精神的なものや行動が我々の中にあると思います。ただ、私ができることは、これから、日本が、外国に占領され支配されることによって人々の自由が奪われることのないよう祈るだけです。自分たちの国は支配されてはいけないのです。自分たちで作り、守っていかなければならないということです。その国の現在は、過去の歴史を知ることなく、批判することはできません。 |