トスカ
TOSCA


 

このオペラはプッチーニ(1858年〜1924年)中期の作品です。初演は1900年1月14日、ローマのコスタンツィ劇場でのことでした。
プッチーニはこのオペラの成功により、イタリア・オペラ界において、翌1901年に亡くなるヴェルディの後継者としての地位を確立しました。

時代背景

1791年6月、ヴァレンヌ事件。逃亡した国王ルイ16世とマリーアントワネット、パリへ送還
1792年2月、マリー・アントワネットの兄、レオポルト2世死去
    3月、反革命のスウェーデン国王グスタフ3世が暗殺
    4月、フランスがオーストリアに宣戦布告
    7月、「ラ・マルセイエーズ」の広まり →後に国歌に
1797年1月、イタリア戦役でナポレオンがオーストリアに大勝利(リヴォリの闘い)
       ナポレオンがローマを占領
1799年、ナポレオンのエジプト遠征中、イタリアでオーストリア軍が攻勢
1800年5月、エジプトから帰還したナポレオン、サン・ベルナール峠を越えて北イタリアへ侵攻

1800年6月17日のローマ。
スペイン、オーストリアなどの近隣強大国の勢力を追放し、封建的特権の廃止、教会財産の没収などフランス革命の精神をイタリアにもたらしたフランス軍が約1年前に撤退したローマには、フランス軍と入れ替わりに南イタリアのナポリ軍が占領していた。
そこにナポレオンが失脚したという誤報が入ったのでナポリ王朝派は勢力を強めていたのだが、その中で人々からもっとも恐れられていたのが約1週間前にナポリ王朝から派遣され警視総監に就任したスカルピアであった。
一方、ローマ共和国の総督として活動していたものの政権の崩壊とともに政治犯として囚われていたアンジェロッティは牢獄からの脱出に成功し、妹の指示通り教会に逃げてきた。

共和国側:オーストリアと敵対するナポレオンがイタリア各地に共和国を建国
      アンジェロッティはこの共和国の元総督
      カヴァラドッシは共和国支持でアンジェロッティの友人
      再度、イタリアに侵攻したナポレオンは1800年6月14日にイタリア北部
      マレンゴにてオーストリア軍と対峙した。

王朝派:ナポリ王国はオーストリアの支配下
     ナポリ王フェルディナンド4世(1751-1825)
     マリー・カロリーナ王妃(1752-1814)
       (マリアテレジアの10女でマリー・アントワネットの姉)
     「ランスへの旅」の中でフォルヴィル伯爵夫人と騎士ベルフィオールが
     二重唱で歌うマリー・カロリーヌ(1798-1870)とは同名だば別人
     ナポリ王朝から派遣されたのが警視総監がスカルピア


登場人物青字は男性、赤字は女性)

フローリア・トスカ(悲劇の歌姫)

恋人
マーリオ・カヴァラドッシ(画家)

友人
チェーザレ・アンジェロッティ ←政敵→ スカルピア(警視総監)

第1幕
聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会

画家カヴァラドッシが最近よく聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会で見かける女性=アッタヴァンティ侯爵夫人(実は脱獄後の逃げ場所として下見に来ていたアンジェロッティの妹)の絵を画いていた。

その際彼女は気づかなかったが、画家マリオ・カヴァラドッシが教会の注文で描いているマグダラのマリア像のモデルにしていた。 一族の礼拝堂に隠れるとすぐに堂守が、続いてカヴァラドッシが登場する。堂守は画家が絵筆を洗うのを手伝う。カヴァラドッシはちょっと仕事を休み、ポケットに持っていたメダルを見つめる。このメダルはトスカの肖像が描いてあり、彼は描きつつある肖像の青い目に金髪のモデルと、黒い目に茶色の髪のトスカとを比較して歌う(妙なる調和)。

 

♪妙なる調和♪
Recondita armonia
Mysterious harmony

(カヴァラドッシ)
    様々の美しさの中に秘められた調和よ私の情熱的な恋人フローリアは栗色だ

(堂守)
    生きている人間らとたわむれて聖人達はほったらかしだ

(カヴァラドッシ)
    そして名を知らぬ美しいあなたは金色の髪が豊かで青い瞳トスカは黒い瞳をもっている

(堂守)
    生きている人間らとたわむれて聖人達はほったらかしだ

(カヴァラドッシ)
    様々の美しさは芸術の神秘の中に溶けあっている
    しかし私がこの婦人の肖像を描いている時、私のただ一筋の思いはトスカ、ただ一人君だけに

(堂守)
    マドンナと競い合う色々な長いスカートをはいた女たちは地獄のいやな臭いをおくってくる
    生きている人間らとたわむれて聖人達はほったらかしだ


第2幕
スカルピアが公邸としているファルネーゼ宮殿
(現在はフランス大使館として使用)

 

 

(歌に生き愛に生き)

 

ナポレオン軍がマレンゴでオーストリア軍を破っていたことが知らされる。
牢屋に連行されるカヴァラドッシの後を追おうとするトスカを、スカルピアが呼びとめる。彼女は賄賂で助命を得ようとするがスカルピアは恋人を自由にする代償として彼女の身体を求める。
トスカは絶望し、何故このような過酷な運命を与えたのかと神に助けを求めて祈る(歌に生き、愛に生き)。
一般には「歌に生き、恋に生き」で知られているが、トスカは「私は歌に生き、神へのamoreに生きてきたのです。」と歌うので、ここでのamoreは「愛」と訳すのが妥当である。(amoreを「恋」と訳すと「神への『恋』に生きる」になり、間違いである。)

「歌に生き、あなたへの愛に生きて 何も悪いことをしていないのに・・・ どうしてこんな目にあわせるのですか、神様!」

トスカが観念したと見たスカルピアは、スポレッタに対しカヴァラドッシの見せかけの処刑を行うよう命令する。
トスカは食卓のナイフを隠し持つ。スカルピアがトスカ、とうとう我が物と迫るところを、トスカはこれがトスカのキッスよといってナイフで胸を刺す。息絶えた彼の手からイタリア出国のための通行証を奪うと、トスカは信心深く遺体の左右に燭台をおき、十字を切ると遠くの太鼓の音をききつつ去る(彼の前でローマ中が震え上がっていた)。


第3幕
サンタンジェロ城の屋上の処刑場

カヴァラドッシの処刑は明け方。夜、空は晴れ渡り、星が煌めいています。遠くから羊の群れの鈴の音が聴こえて来ます。

LA VOCE DI UN PASTORE 牧童の歌

僕は愛の吐息を君に送る 
風に揺らぐ 木の葉のように 何度も何度も
君がさげすめば 僕は悲しい
おお、黄金の朝日よ 君を想い 僕は死なん

Lampene d'oro
 Me fai morir!

聖書は神様からのラブレターです。神様からの呼びかけの声に満ちています。
ヨハネによる福音書
10章は「よき羊飼い」です。
良き羊飼いとはイエス・キリストの事です。
主は過ちを犯す羊の群れ(ユダヤの民)を導いています。

私の羊は私の声を聴き分ける。
私は彼らを知っており、彼らは私に従う。

パレスチナでは群れの羊には一匹一匹名前が付けられていて、羊飼いは羊の名前を呼びながら群れを守るのだそうです。羊は極度の近眼のため羊飼いの声を聴いて安心し、その声に導かれて歩んでゆきます。

夜が明けようとしている。カヴァラドッシは夜明けに行われる処刑を牢屋で待っている。彼は看守に指輪を与えてトスカに伝言を渡すよう頼む。別れの手紙を書き始めるが、自らの死と恋人との別れを想うと絶望して泣き崩れる(星はきらめき)。

星は輝いていた  そして大地も香しかった
果樹園の戸がきしみ  砂地の上に軽い足音がして彼女がやってきた
甘い香りをただよわせ  私の腕の中に崩れ落ちるように入ってきた
ああ、甘い接吻  やさしい愛撫
はやる心を抑えている私の前で  着物を脱いでその美しい姿を現わしたのだ
私の愛の夢はもはや永遠に消えてしまった
時は去ってしまった  私は絶望の中で死んでゆく
今ほど私は自分の命をいとおしいと思ったことはない

 

♪星はきらめき♪
E lucevan le stelle
The stars were shining
 

トスカが現れ、驚くカヴァラドッシに通行証を見せ、これまでのいきさつを語る。空砲で見せかけの処刑が行われること、恋人の助命を引き換えに身体を要求したスカルピアを、信心深く虫も殺せぬ彼女が刺し殺したことを聞き、カヴァラドッシは彼女の手をとって「おおやさしい手よ」とトスカの愛情と勇気をたたえ、トスカと互いの愛情を歌う(二重唱新しい希望に魂は勝ち誇って)。

トスカは刑場に赴くカヴァラドッシにうまく倒れてねと言葉をかけ、彼も劇場のトスカのようにと応じる余裕を見せる。

並んだ兵士たちが一斉に発砲し、カヴァラドッシは倒れる。トスカは彼の演技がうまいと一人ほめる。兵士たちが去ったのをみてトスカはマリオに近づき、逃げようと声を掛けるが彼は動かない。

処刑は本物であった。スカルピアは最初からカヴァラドッシの命を救うつもりなどなかったのだ。トスカは死んで横たわるカヴァラドッシの傍らでスカルピアの計略を悟り、マリオの名を呼んで泣き叫ぶ。そこにスカルピアが殺されていることを知ったスポレッタが兵士と共に駆け寄り、彼女を殺人罪で逮捕しようとするが、彼女は逃れ、サンタンジェロ城の屋上から身を投げる。


蝶々夫人