ニーベルングの指環

Der Ring des Nivelungen

里中満智子


 

序夜〜ラインの黄金

 

第一場 ラインの水底

ライン川に住む水の精は甘い声で男たちを惑わせ水に誘い込む。ライン川に眠る「ラインの黄金」で作った指環を身につけた者はこの世を支配できる力を待つ

地底に住むニーベルング族のアルベリヒは愛を完全に否定して、「ラインの黄金」を盗み出して指環を作った

第二場 神々の城ヴァルハラ

神々の王ヴォータンは妻フリッカへの愛のあかしとして自身の片目を天に差し出した

一族の長ヴォータンは世界樹であるシンボルのとねりこの木から自らの槍の柄をつくり、それで世界を制している

巨人たちに城の建築を命じ、その報酬として愛と豊穣の女神フライアを与えると約束した

ヴォータンは地底のニーベルング国=ニーベルハイムに降り、ラインの黄金を手に入れ、それをフライアと交換しようとももくろんだ

第三場 ニーベルング族の世界

アルベリヒの弟で世界一の鍛冶職人ミーメ「ラインの黄金」を製錬して指環と、自在に姿を変えられる頭巾を作った

ヴォータンアルベリヒを騙して、カエルの姿に変身させて指環頭巾を手に入れた

第四場 黄金の指環

ラインの指環ヴォータンに奪われたアルベリヒ指環の所有者に死の呪いをかけた

巨人族のファーフナーはラインの黄金のほかにも指環までも要求した

大地と知の神エールダは、神々の上に暗い終末が襲い掛からないようにヴォータン指環を手放すように忠告した

巨人族の兄弟ファーフナーファーゾルトは、ラインの指環と交換に青春の女神フライアを解放した

指環を手にしたファーゾルトは兄ファーフナーに殺され指環を奪われた

 

第一夜〜ワルキューレ

ヴォータンは念願の城ヴァルハラで神々の長として君臨するが・・・エールダに言われた「神々の終わりの時がくる」という言葉が頭からはなれず、常に不安にかられていた
そしてついに決心し、エールダに会いに行き、秘密を聞き出すために最大の情熱を傾けてエールダをくどいて関係を結ぶ ヴォータンエールダの間にはブリュンヒルデが誕生する

ヴォータンヴェルゼと名乗り人間の女と交わり男子と女子の双子を得た ある日家へ戻ると妻はナイディング一族に殺され、娘はさらわれていた ヴォータンは息子と二人下界を流れ歩くが、オオカミの毛皮一枚を息子に残して下界を去る

第一場 ジークムントとジークリンデ

ヴォータンの息子は戦いに疲れ、フンディングの家に逃げ込んだ
「どうぞ、ゆっくり休んでいってください 私の名はジークリンデ
「私はヴェーヴァルト(悲哀を司る男)と申します」
「私は盗賊たちからフンディングへと贈られた妻なのです」

「ある日、見知らぬ人がこの家に入ってきたのです」
「圧倒的なその人の存在感に皆固唾をのんで見つめていると、この家をつらぬくとねりこの木に近づいて、手にした剣を幹に深々と突き刺したのです」
「これは世に二つとない剣だ この幹から引き抜くことのできた者の持ち物となる・・・そう言って立ち去ったのです」

「私の本当の名はヴェルゼ
「え! それは私の父の名!」
「じゃあ あなたは離れ離れになっていた兄・・・!」
「やはり父上は私を救うあなたのために剣を用意してくださったのよ!」
「私があなたに名をつける」
「私はリークリンデ それならば、双生児の兄のあなたの名は ジールムント(勝利を司る者)と名付けるわ」
「父はかつて約束した!最大の危機(ノート)に私に剣を与えると この剣をノートウングと呼ぼう!」

ジークリンデ! この剣を求婚の証にする」
「妹にして妻であるお前をこの剣にかけて一生守る」

第二場 ブリュンヒルデ

「父上の意思に従って私はジークムントを勝たせるよう支援します」

「夫のある身でありながら他の男と・・・!しかも兄妹同士とは! なんとおぞましい!『結婚』は神聖です! 私はフンディングを守ります」

フリッカの望みをかなえてくれ ジークムントに敗北を与えよ! 命令だ!ジークムントを倒せ!」

「私は決心しました あなたの運命を変える! あなたジークムントに勝利と祝福を与える!」

ヴォータンによってノートウングから勝利の力を抜き取られ、ジークムントフンディングとの戦いに敗れた

ジークムントの子を宿したジークリンデブリュンヒルデによって守られた


第三場 ヴォータンの怒り

「だめよ!生きなくては! あなたの胎内にはジークムントの息子がいるのよ!」

「これを持って逃げなさい! 倒れたジークムントのかたわらから破片をすべて集めたのです いつかこの破片を繋ぎ合わせて剣を再生したら その剣を持つあなたの息子は真の勇士になる 私からその息子にジークフリート(勝利)という名を贈ります」

「もはやお前は私のワルキューレ処女戦士ではない! 神々の世界から追放する!」
「お前に長い長い眠りを与える お前を目覚めさせるのは通りがかりの人間の男だろう お前はその男の妻になるのだ」

ローゲ 炎を生み出せ!絶壁と炎を恐れぬ真の勇者しかブリュンヒルデに近づけてはならぬ」


第二夜〜ジークフリート

 

第一章 ノートウングの剣

この世を支配できる黄金と指環と、姿を消したり変身も自由自在な魔力の頭巾は今、大蛇に変身したファーフナーが巨大な体の下に隠している

おれが小さい頃、森で仲良くしている鳥を見ていたときに教えてくれた
「あれはオスとメスなんだ 鳥たちはやがて巣を作り卵を生みヒナをかえし育てた 他の生き物たちもみなオスとメスがいて子ができる 母は決して子からエサを奪おうとはしない 親は子に与えるだけだ」
俺は動物たちから“愛”を学んだ

ノートウングは破片になっているが誰が剣を再生できるのだ? この世で唯一「恐れを知らぬ者」だけがあの剣を再生できるのだ! それが誰なのか分かるだろう

この森の東の果てに「ねたみの洞窟」があり、そこには大蛇に変身した巨人が眠っている その大蛇と闘えば「恐れ」を知るだろう

「お前の母の話しではその剣の名は「ノートウング(危機) !」
「父上の残した剣を息子の俺が生き返らせたのだ!」


第二章 勇士

大蛇の熱い血をなめたせいで、ジークフリートは鳥の声が分かるようになる

ジークフリートミーメを信用してはだめよ 君は大蛇の血をなめたから相手の本心が読めるようになったんだ」

ミーメを殺すと、ジークフリートは一人ぼっちになった
「でもね 実はジークフリートにふさわしい相手がいるよ」
「炎が取り囲む岩山の上で眠り続けているブリュンヒルデを目覚めさせることができれば彼女は君のものだ」
恐れを知らない真の英雄だけがその炎を乗り越えられる」


第三章 めぐりあい

全知そのものだった頃のエールダの予言に偽りはない   神々は滅びる運命にあるのだ 私はそれを受け入れ覚悟し決断する 神々の助力なしに英雄となる最初の人間 ジークフリートブリュンヒルデを目覚めさせ ブリュンヒルデ世界を救済する偉業を成し遂げるのだ!」

「教えてやろう この「支配の槍」がかつてお前が持っているその剣を砕いたのだ!」

「どうしたらいい? この神々しいまで輝く人を起こすにはどうしたら?」
「眩しくて目がくらみそうだ 胸が昂って世界中が揺れ動いて見えて 怖気づいてしまう」
「これが「恐れる」ということなのか!」

「私が信念を賭して救おうとしたジークムントの子! 父上の命令に背いてまで救おうとした命! 私がジークリンデに「ジークフリートと名付けなさい」と言ったあのジークフリート

 

 

第三夜〜神々の黄昏

 

第一章 序幕

三人のノルンたち
長女は「過去」侍女は「現在」三女は「未来」を管理する運命の糸をつむぎ・編み・織ることである 三人の母はブリュンヒルデと同じく全智の女神エールデである

ヴォータンとねりこの木を折り、その枝を力の象徴の柄に仕立て、その槍で世界を制した
でも、枝を折られたとねりこの木は折られた傷口から徐々にむしばまれて、ついに干乾びて枯れた
権威の象徴だったヴォータンの槍も一人の勇者が砕いてしまった

ヴォータンは例のとねりこを根こそぎ倒して薪にし、城の周りに積み上げた 薪が燃えるとき、永遠なる神々の終末がおとずれる

終末を少しでも遅らせるように時を紡いだ綱を世界に張り巡らせるのよ」「たるませては駄目よ もっとピンと張らないと」

「切れた! 切れてしまった未来を紡ぐ糸が」
「さようなら神々しい世界 私たちは地の底へ下りて行きましょう」

「男は武勲を立ててこそ一人前だ どうしても名を挙げたいのだ 分かってくれ」
「もし俺に何かあったとしてもお前の存在とお前への愛だけは忘れない!」
「愛のあかしにお前に渡そう 誓いの指環だ!」

「では、私からも グラーネいらっしゃい 今からジークフリートがご主人よ」


第二章 ギービヒの館

グンターはラインのほとりで勢力を誇るギービヒ一族の長
グンターとは父親違いの弟ハーゲン
彼の母はかのニーベルングアルベリヒにそそのかされて身を任せハーゲンを生んだ

「森のかなた・・・炎に包まれて常に燃えている岩山があり、そこにはこの世で最高の女性ブリュンヒルデが住んでいる」
「彼女こそグンターの花嫁にふさわしい存在だ」

「地上最強の勇者だけがその岩山の炎を突き破れる」
「森の奥で育ったたぐいまれなる勇気を持つ男ジークフリートこそ妹グートルーネの夫にふさわしいこの世で最強の勇者です」

「だから ジークフリートブリュンヒルデを連れてこさせるのです 「兄上の花嫁」として」
「まず、ジークフリートグートルーネと結婚させれば・・・ 彼もいとしい妻のためなら承知する筈です」

「一口飲めばこれまでの女を忘れて目の前の女に恋をする・・・その薬を用意した ジークフリートに飲ませよう これで彼はグートルーネの夫になる」

「実は私は妻を求めているのだが、その女性ブリュンヒルデは遥か彼方の炎に包まれた岩山にいて、炎を乗り越えられるのは世界一の勇士だけなのだ 君がその女性を私の妻として連れてくるなら、その代わりに喜んで妹グートルーネを君の妻としよう」

「今、ブリュンヒルデの手元にあるラインの黄金の指環  あれはもともと我が父アルベリヒの、ニーベルング族のものだ 俺は何としてその指環を取り戻す その為にジークフリートを利用するのだ」


第三章 変身 

「ああ、なつかしい! ヴァルトラウテ! 会いに来てくれたのね!」
「父上はヴァルハラの戦士たちをかりだして世界樹を倒し膨大なたきぎにしてそれを城の周りに積み上げさせ王座に座ったまま身じろぎもなさらない 手には勇士に砕かれたという槍の破片を握りしめて」

ブリュンヒルデ・・・お前が持っている指環ラインの娘たちに返してくれれば・・・神々の世界は呪いの重荷から救われる」

「お願い、お姉さま その指環をラインの娘たちに返してあげて!」

「これは何物にも換え難い愛のしるしなのよ!」
「神々の名声・・・永遠の安定・・・それが何なの? 愛こそが世界の真実よ 私の愛は誰にも奪えないわ」

「この頭巾をかぶれば何にでも変身できる さぁ、これでグンターに変身した 服を取り換えよう 私はグンターとして求婚してくる」

ギービヒ長男グンターだ そなたを妻にするためにやってきた」
「お下がり!私は大いなる力であるこの指環で守られているのよ」

「この指環は俺のものだ!」
「これで俺はグートルーネと結婚できる」


第四章 ブリュンヒルデの悲哀

「今こそこれまでの恨みを晴らすのだ」
「世界を支配する指環は必ず手に入れる」

グンター様が花嫁を連れてお戻りになる 急げ!祝宴の準備だ」

「準備は整っています 二組揃っての祝宴です」

「妹のグートルーネとその婚約者の・・・」
「あら? 貴方はジークフリート!
「えっ? なんで俺を知っている?」

「この女が俺を知っている筈がない 結婚の神フリッカに誓っておれの生涯の妻はグートルーネだけだ」

「理由は分からないがどうやら俺の変身が中途半端で そなたと俺を混同している・・・としか思えない」

「気の毒に 私の槍にかけて誓った言葉が偽りならば正義のために私が彼を倒さねば・・・」
「倒せないわ 彼は不死身よ」
「あっ! 背中には愛の呪文をかけなかったわ 彼は敵に背中を見せる人じゃないから」

「約束は全て神聖なもの 裏切りは聖なるものへの冒涜! ジークフリートに死を!」

「決意しろ グンター! ジークフリートが死ねば彼の指環を手に入れられる 君の名誉は回復できるしグートルーネの相手だってまた直ぐにみつかるさ」

 

第五章 終幕 

「いや 何があったのか思い出せない」

忘れていた記憶を取り戻す薬だ 飲んでみろ 思い出せるかも・・・な」

「ああ! ブリュンヒルデ! 彼女を目覚めさせ愛したのだった」

「何だって?! じゃあグンターより先にブリュンヒルデを妻にしていたのか!?

ジークフリートの罪を明らかにするために記憶を呼び戻す薬を飲ませたら白状したのさ グンターの花嫁に先に手をつけていたことを! グンターの名誉を守るためにジークフリートを殺したのさ」

「よせ!指環に手を出すな! ジークフリートの遺産は妻であるグートルーネのものだ」

「おお! 真犯人が近づくと死体が指さして告白するというが」

「全て分かったわ ジークフリート そして全てが終わるのよ 貴方と共に」
「さあ!ローゲ 薪を! 地上の勇士を見送るのにふさわしい大きな炎でジークフリートの体を包むのよ」
グラーネ! 来てくれたのね さあ、一緒に行きましょう!

指環だけ残してブリュンヒルデは灰になったのか! この指環は俺のものだ うわぁ! ライン川が溢れて・・・」

「全てのものは終わりが来る これで 神々の時代は終わる」

「私たちのラインの黄金 おかえりなさい」