『第三夜〜神々の黄昏』
第一章 序幕
三人のノルンたち
長女は「過去」侍女は「現在」三女は「未来」を管理する運命の糸をつむぎ・編み・織ることである 三人の母はブリュンヒルデと同じく全智の女神エールデである
ヴォータンはとねりこの木を折り、その枝を力の象徴の柄に仕立て、その槍で世界を制した
でも、枝を折られたとねりこの木は折られた傷口から徐々にむしばまれて、ついに干乾びて枯れた
権威の象徴だったヴォータンの槍も一人の勇者が砕いてしまった
ヴォータンは例のとねりこを根こそぎ倒して薪にし、城の周りに積み上げた 薪が燃えるとき、永遠なる神々の終末がおとずれる
「終末を少しでも遅らせるように時を紡いだ綱を世界に張り巡らせるのよ」「たるませては駄目よ もっとピンと張らないと」
「切れた! 切れてしまった未来を紡ぐ糸が」
「さようなら神々しい世界 私たちは地の底へ下りて行きましょう」
「男は武勲を立ててこそ一人前だ どうしても名を挙げたいのだ 分かってくれ」
「もし俺に何かあったとしてもお前の存在とお前への愛だけは忘れない!」
「愛のあかしにお前に渡そう 誓いの指環だ!」
「では、私からも グラーネいらっしゃい 今からジークフリートがご主人よ」
第二章 ギービヒの館
グンターはラインのほとりで勢力を誇るギービヒ一族の長
グンターとは父親違いの弟ハーゲン
彼の母はかのニーベルングのアルベリヒにそそのかされて身を任せハーゲンを生んだ
「森のかなた・・・炎に包まれて常に燃えている岩山があり、そこにはこの世で最高の女性ブリュンヒルデが住んでいる」
「彼女こそグンターの花嫁にふさわしい存在だ」
「地上最強の勇者だけがその岩山の炎を突き破れる」
「森の奥で育ったたぐいまれなる勇気を持つ男ジークフリートこそ妹グートルーネの夫にふさわしいこの世で最強の勇者です」
「だから ジークフリートにブリュンヒルデを連れてこさせるのです 「兄上の花嫁」として」
「まず、ジークフリートをグートルーネと結婚させれば・・・ 彼もいとしい妻のためなら承知する筈です」
「一口飲めばこれまでの女を忘れて目の前の女に恋をする・・・その薬を用意した ジークフリートに飲ませよう これで彼はグートルーネの夫になる」
「実は私は妻を求めているのだが、その女性ブリュンヒルデは遥か彼方の炎に包まれた岩山にいて、炎を乗り越えられるのは世界一の勇士だけなのだ 君がその女性を私の妻として連れてくるなら、その代わりに喜んで妹グートルーネを君の妻としよう」
「今、ブリュンヒルデの手元にあるラインの黄金の指環 あれはもともと我が父アルベリヒの、ニーベルング族のものだ 俺は何としてその指環を取り戻す その為にジークフリートを利用するのだ」
第三章 変身
「ああ、なつかしい! ヴァルトラウテ! 会いに来てくれたのね!」
「父上はヴァルハラの戦士たちをかりだして世界樹を倒し膨大なたきぎにしてそれを城の周りに積み上げさせ王座に座ったまま身じろぎもなさらない 手には勇士に砕かれたという槍の破片を握りしめて」
「ブリュンヒルデ・・・お前が持っている指環をラインの娘たちに返してくれれば・・・神々の世界は呪いの重荷から救われる」
「お願い、お姉さま その指環をラインの娘たちに返してあげて!」
「これは何物にも換え難い愛のしるしなのよ!」
「神々の名声・・・永遠の安定・・・それが何なの? 愛こそが世界の真実よ 私の愛は誰にも奪えないわ」
「この頭巾をかぶれば何にでも変身できる さぁ、これでグンターに変身した 服を取り換えよう 私はグンターとして求婚してくる」
「ギービヒの長男グンターだ そなたを妻にするためにやってきた」
「お下がり!私は大いなる力であるこの指環で守られているのよ」
「この指環は俺のものだ!」
「これで俺はグートルーネと結婚できる」
第四章 ブリュンヒルデの悲哀
「今こそこれまでの恨みを晴らすのだ」
「世界を支配する指環は必ず手に入れる」
「グンター様が花嫁を連れてお戻りになる 急げ!祝宴の準備だ」
「準備は整っています 二組揃っての祝宴です」
「妹のグートルーネとその婚約者の・・・」
「あら? 貴方はジークフリート!」
「えっ? なんで俺を知っている?」
「この女が俺を知っている筈がない 結婚の神フリッカに誓っておれの生涯の妻はグートルーネだけだ」
「理由は分からないがどうやら俺の変身が中途半端で そなたと俺を混同している・・・としか思えない」
「気の毒に 私の槍にかけて誓った言葉が偽りならば正義のために私が彼を倒さねば・・・」
「倒せないわ 彼は不死身よ」
「あっ! 背中には愛の呪文をかけなかったわ 彼は敵に背中を見せる人じゃないから」
「約束は全て神聖なもの 裏切りは聖なるものへの冒涜! ジークフリートに死を!」
「決意しろ グンター! ジークフリートが死ねば彼の指環を手に入れられる 君の名誉は回復できるしグートルーネの相手だってまた直ぐにみつかるさ」
第五章 終幕
「いや 何があったのか思い出せない」
「忘れていた記憶を取り戻す薬だ 飲んでみろ 思い出せるかも・・・な」
「ああ! ブリュンヒルデ! 彼女を目覚めさせ愛したのだった」
「何だって?! じゃあグンターより先にブリュンヒルデを妻にしていたのか!?
「ジークフリートの罪を明らかにするために記憶を呼び戻す薬を飲ませたら白状したのさ グンターの花嫁に先に手をつけていたことを! グンターの名誉を守るためにジークフリートを殺したのさ」
「よせ!指環に手を出すな! ジークフリートの遺産は妻であるグートルーネのものだ」
「おお! 真犯人が近づくと死体が指さして告白するというが」
「全て分かったわ ジークフリート そして全てが終わるのよ 貴方と共に」
「さあ!ローゲ 薪を! 地上の勇士を見送るのにふさわしい大きな炎でジークフリートの体を包むのよ」
「グラーネ! 来てくれたのね さあ、一緒に行きましょう!
「指環だけ残してブリュンヒルデは灰になったのか! この指環は俺のものだ うわぁ! ライン川が溢れて・・・」
「全てのものは終わりが来る これで 神々の時代は終わる」
「私たちのラインの黄金 おかえりなさい」