宗教画理解の手引き


第一章 神話と伝説

 

ギリシャの神々

ギリシャ名 意味 ローマ名 英語読み
アテナ 知恵 ミネルバ ミナーバ
アフロディテ ウェヌス ビーナス
アポロン 芸術 アポロ アポロウ
アルテミス 狩猟 ディアナ ダイアナ
エロス クピド キューピッド
ガイヤ 大地 テルス テラス
ゼウス 地上 ユピテル ジュピター
ディオニュソス バッコス バッカス
へラ ゼウスの妻 ユノ ジューノー
へリオス 太陽 ソル ソル
ポセイドン ネプトゥヌス ネプチューン

 

アフロディアとヴィーナス

女性の美と愛の象徴。航海の守り神。後にキリスト教ではニコラウスが代役。
ローマ神話の女神ウェヌス(英語読みはヴィーナス)。

ヴィーナスの誕生(ボッティチェリ) ウフィッツィ美術館

宇宙の初めは暗闇でドロドロしていた。やがて上下に分離。上は父なる天空ウラノス、下は母なる大地ガイヤが支配。二人の末息子クロノスは父ウラノスの男根を切り取り海へ投げる。ウラノスの男根は海に漂い溢れ出た精液は泡(アフロ)と混じり美しい女子が誕生。貝の舟に乗って、キプロス島に流れ着く。古代オリエントの女神アシュタルテ信仰がギリシャに伝わりアフロディアに進化。女性美とセックスは豊穣のシンボル。

 ウルビーノのヴィーナス(ティツィアーノ) ウフィッツィ美術館

 

クロノスに飲み込まれた子

ウラノスに代わって天下を取ったクロノスは、自分も息子に支配権を奪われることを恐れ、生まれた子供を次々に飲み込んでしまう。クロノスに飲み込まれた子供とはヘラ(主婦の座の象徴、後にゼウスの妻)、ポセイドン、ゼウス・・・など。

「ギガントマキア=巨人との戦い)」ペルガモン博物館、ゼウス祭壇のレリーフ

クロノスの腹から出て日の目を見た子供たちと野蛮な父親クロノスとその兄弟である巨人たちとの戦い。10年間の戦いの結果、子供たちが勝利し、くじ引きの結果三人で世界を支配した。長子プルートンは冥界を、次子ポセイドンは海を、末子ゼウスは天と地の支配者となる。

 

海神ポセイドン

ローマ神話のネプチューン。エーゲ海の底深く、黄金の光きらめく宮殿から海馬のひく馬車に乗って出現。
三叉の鉾がポセイドンのトレードマーク。

「トレヴィの泉」 ローマ

「トリトーネの噴水」
ローマ、バルベリーニ広場

前半身が馬、後半身がイルカの海馬に乗るポセイドン像の噴水。
ポセイドンとアンフィトリオンの間に生まれた息子がトリイトン(イタリア語ではトリトーネ)
トリトーネは下半身が魚(または蛇)でホラ貝を手にしている。

 

天空の神ゼウスと子供たち

父親クロノスの三女ヘラと兄弟で結婚、浮気者で知られる。

巨人族の娘レートー⇒双子を出産 @アポロン、Aアルテミス
知恵の女神メティス⇒Bアテナを出産
巨人アトラスの娘マイラ⇒Cヘルメスを出産
アルクメネとの浮気⇒夫の姿に化けてDヘラクレスを出産

フェニキア(レバノン)のエウロペー⇒白い雄牛に化けてクレタ王ミノスを出産
ミケーネのダナエ⇒黄金の雨粒に化けてペルセウスを出産
レダ⇒白鳥に化けてヘレナを出産 ヘレナはスパルタの王妃となりトロヤの王子パリスと駆け落ち(トロヤ戦役へ発展)

@空遠矢射るアポロン
竪琴、弓矢、月桂樹の枝を手にしている。太陽、音楽、詩、青春と苦悩の象徴。

エロースはアフロディアの子で、恋と性愛をつかさどり、その黄金の矢で射られたものはたちまち愛欲に身を焦がす。
ローマ神話ではクピードー(英語でキューピッド)

エロースから金の矢を打ち込まれたアポロンはダフネに恋焦がれる。
一方鉛の矢を射込まれたダフネはアポロンを拒絶。
死んでも乙女のままで!と、月桂樹と化す。(月桂樹はギリシャ語でダフネ、英語でローレル)

アポロンはまだ温かみの残っているダフネの樹に抱きついて、
「ああ、何という姿になってしまったんだ。愛らしいダフネよ。これからは競技の優勝者の頭をお前の美しい枝で飾って栄誉を表わすことにしよう」(デルフィーで4年ごとに大競技大会が開催され優勝者には月桂冠が授けられた)

A女神アルテミス
ローマ神話のディアーナと同一視される。額の上の三日月の印がトレードマーク。

「アルテミス神殿」 エフェソス
古代世界七不思議の一つ

たくさんの乳房が群がりついているアルテミス女神像

アルテミスのお供のニンフたちとはもともと泉の精。古代遺跡にあるニンフェウムと呼ばれる神殿は水の精を祭った神殿であると同時に、水飲場の役も果たしていた。泉の精を乙女とする伝説はたくさんあり、アグリッパが引いたローマ水道も「乙女の水道」と呼ばれた。

B知恵と武芸の女神アテナ ローマ神話のミネルヴァ。

アテナの盾にはメドゥーサの首がついている。ダナエとゼウスとの間に生まれた子ペルセウスがメドゥーサの首を斬り取った。
斬り取られた首は、なおも見る者を一瞬のうちに石と化す力を失わなかったため、アテナに奉納した。

C道と旅と商業の神ヘルメス 
ローマ神話のメルクリウス(英語ではマーキュリー)

蛇の巻きついている杖がトレードマーク。商業の神様であるため、このマークは商業高校の校章に使われる。
ギリシャ各地にあったヘルマという石の道標が起源。

ヘルメスはゼウスが巨人アトラスの娘マイラのに産ませた子
巨人アトラスはアトラス山脈の語源。アトラスのかなたの海という意味からアトランティック・オーシャン=大西洋の名が生まれた。

新製品開発のアイデアを持つヘルメスは自分の作ったガットと呼ばれる弦楽器を掻き均す。音楽の神アポロンはたちまちその妙なる音に心を奪われる。足元をみたヘルメスはたかが亀一匹で作った弦楽器を異母兄アポロンと牛50頭と交換した。「元がどんなに安い物であろうと、買い手の願望にマッチすれば高く売ることができる」という古代交易の本質を示している。亀の弦楽器で味をしめたヘルメスは、次に葦で作った笛をアポロンの持っていた黄金の杖と交換した。ヘルメスはその杖に「知恵とすばしっこさ」の象徴である蛇を巻きつかせトレードマークとした。

D筋肉モリモリ、ヘラクレス

節くれだった太い棍棒と頭付きのライオンの毛皮がトレードマーク。仏教と共に日本まで伝わった(金剛神や四天王)唯一の西洋の神様。

ヘラクレスへのアポロンの神託=12の功業
「父の故郷ティリンスへ行き、領主エウリステウスに12年間仕えて、彼が命じる12の功業を成し遂げよ。さらば汝の妻子殺しの罪は浄められ、不死の身となって、神の一柱に加えられるであろう」

第1の功業ヘラクレスが退治したライオンは天に上げられ獅子座となった。
第9の功業=小アジアから黒海にかけて住んでいたアマゾン族の女王との戦い。

インカ帝国を征服したスペイン人が、アンデスを越えて東側の平原まで下りていったとき、原住民は女までもが弓を取って勇敢に抗戦した。これこそ伝説のアマゾン族そっくりだというわけで、そこを流れる大河をアマゾン川と名付けた。