トゥーランドット
TURANDOT


 

 

 

架空の時代の中国・北京の紫禁城を舞台に
壮大なスケールで描かれる巨匠プッチーニの遺作であり、
また、イタリア・オペラの最高傑作


トゥーランドットの意味

『トゥーランドット』(Turandot)は『千一日物語』(千一夜物語とは別)の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」に登場する姫の名前で、中国語では、『杜蘭朶』と表記。

プッチーニ最後の傑作

この「トゥーランドット」はイタリア・オペラの巨匠ジャコモ・プッチーニ(1858〜1924)の10作目にして最後の遺作となった作品。

トゥーランドットはプッチーニの死により未完となりましたが、気鋭の作曲家フランコ・アルファーノはプッチーニのスケッチをもとに作品を完成させた。

1926年4月25日、ミラノ・スカラ座にて行われた初演の際、指揮者のトスカニーニは、リューの葬送を終えたところで指揮をやめ、「プッチーニはここで病に倒れました」と観客に話し、指揮棒を置いた。最後まで演奏されたのは、翌日の第二回上演からだった。


登場人物


トゥーランドット姫
古代中国皇帝の一人娘。絶世の美女であるが、結婚をいやがっている。
昔、北京の王宮はダッタン人に攻められ、先祖の王女ロー・リンが捕らえられて殺された。その復讐をはたすために、結婚を申し込む他国の王子に対しては3つの謎を出し、謎が解けなければ処刑をする・・・

アルトゥム皇帝
トゥーランドット姫のお父さん。中国皇帝。
舞台上の役としては最高位だが、音楽的には簡潔なパートを受け持つ。
高齢のテノール歌手の引退花道として出演するという曰くつきの役。

ピン、ポン、パン
中国の大臣たち。登場する時はいつも3人一緒。

カラフ王子
最後になってようやくその正体が明かされるダッタン王国の王子。
戦いに敗れ国が滅んだため一人逃げ延びている。たまたま同じように逃げ延びた父王と出会う。
トゥーランドット姫に一目ぼれし、周囲の忠告を聞きいれずに3つの謎に挑戦する。

ダッタン王ティムール
カラフのお父さん、ダッタン国の元国王。

リュー
ダッタン王国の奴隷。カラフ王子が以前、一度微笑んでくれたことがあり、その時からカラフを愛するようになった。
国が戦いに敗れた時にカラフの父であるティムール王を救い出し共に逃げてきた。


あらすじ

♪は歌い出しと配役

第1幕

♪北京の民よ(役人)
 役人が「ペルシャの王子は月の出とともに死刑が執行される」と告げる

♪お役人さんひどいよ やめてくれ(群衆)
 流浪の王と王子、群衆の前で邂逅

♪回せ回せ 砥石を回せ(群衆)
 カラフはリューに「なぜ父を助けたのか?」と問いかける

♪なんて年若い王子様(群衆)
 余りに若いペルシャの王子に、人々は王子の助命を嘆願

♪あの神々しい美しさ(カラフ)
 姫の姿を見たカラフは、その美しさに心を奪われる

♪王子よ、どうした(ティムール)
 遠くからペルシャの王子の断末魔の叫びが聞こえる

♪何とする気だ(ピン、パン、ポン)
 3人の役人がカラフの行く手を拒む

♪お聞きください 王子様(リュー)
 リューはカラフに無謀な賭けを思いとどまるように懇願

(お聞きください、王子様)

王子様、聞いてください
ああ、王子様、聞いてください
リューはもう耐えられません 胸が張り裂けるようです
あなた様のお名前を心に、そして声で呼びつづけて
それはとても長く、悲しい歩みでした
もし明日、あなた様の運命が決まったら
私は放浪の果てに生きる道を失ってしまいます
ご老人はご子息を失い、私は微笑の影を失ってしまいます
リューはもう耐えられません
ああ、憐れみを

♪泣かないでくれ リュー(カラフ)
 泣き縋るリューにカラフは決意の固いことを告げ、父の世話を託す。
 カラフ王子は謎解きの挑戦の意志を示すドラを3回叩いた。

第2幕=第1場

♪パンよ ポンよ(ピン)
 3人の役人は「自分たちはいつから首切り役人になってしまったのか」と歎く

♪わしはホーナンに家がある(ピン)
 「もうこんな仕事をやめて故郷に帰りたいなあ」

第2幕=第2場

♪お偉い博士たちのお出ましだ(群衆)
 姫が出す謎の答えを記す巻き物の準備

♪誓いを破るは余にもかなわぬ(皇帝)
 皇帝アルトゥムはカラフに無謀な挑戦をやめるように諭すが、カラフの意思は固く、
  皇帝も諦める。

♪この城に幾千年もの昔(トゥーランドット)
 トゥーランドットが現れ、自分が王子たちを処刑しているのは先祖皇女ロ・ウ・リンの
 復讐を果たすためと告げる

♪異国の者よ聞くがよい(トゥーランドット)
 そして、第一の謎が発せられた。

♪そなたに火をつける氷(トゥーランドット)
 姫が出した三つの謎の答えは、「希望」「血潮」「トゥーランドット」

♪あなたは三つの謎を出し、私はそれを解いた(カラフ)
 姫の我儘に、こんどはカラフが「私の名前を明日までに答えるよう」迫る。

第3幕=第1場

♪姫の仰せをしかと聞け(役人たち)
 北京の町に、「王子の名を探り出すため誰も寝てはならない」とのお触れの声。

♪誰も寝てはならぬ(カラフ)
 お触れの声を聞いたカラフはひとり、高らかに勝利を宣言。

(誰も寝てはならぬ)

何人も寝てはならぬか・・・
姫よ あなた自身も 眠ってはおられまい
愛と希望に輝く星を 見ておられるのだろう
一人 冷たい部屋で

だが、謎の答えは 私の胸の中だ
誰も私の名を 知ることはできぬ
私があなたに 名を告げるのは
朝の光が 輝いてからだ

沈黙により あなたが私のものになったなら
私は 口づけとともに 名を明かそう

名がしれなければ みな 仕置きに
夜よ失せろ 星よ消えろ。
夜明けになれば 私の勝ちだ
私が勝つのだ

♪星を見るより我らに目を向けていただきたい(ピン)
  3人の役人がやってきて、美女や財宝でカラフの買収を試みる。

♪気高き姫君様(ピン)
 ティムールを庇って、リューは私だけが王子の名前を知っていると訴え出る。
 兵士たちがリューを拷問するが、リューは王子の名を明かさない。

♪何がお前の心にそのような力を?(トゥーランドット)
 拷問に耐えられる理由を尋ねるトゥーランドットに、リューは「愛の力です」と返答

♪氷に覆われたあなた様(リュー)
 拷問を続けるトゥーランドットに、リューは王子が必ず勝つと訴えて自刃

♪死の姫君よ 氷の姫君よ(カラフ)
 カラフはついにトゥーランドットに口づけ

♪初めての涙(トゥーランドット)
 涙を流しカラフの勝利を認めるトゥーランドットに、カラフは自分の名を明かす。

第3幕=第2場

♪とこしえの御代を 我等の皇帝陛下に(群衆)
 宮殿前の大広間。トゥーランドットとカラフが進み出る。
 トゥーランドットは「異国の者の名は『愛』です」と宣言する。
 民衆は歓呼の声を上げる。


リューのモデル
今でこそティムール王と行動を共にし、カラフ王子と話をしているものの元をただせばリューは奴隷。このリューにはモデルとなった実在の人物がいます。
ドーリア・マンフレディ。プッチーニ家の小間使いだった人です。
プッチーニは新しいもの好きで有名でした。20世紀の初め、まだ馬車が主流の時代に自動車を乗りまわしていたプッチーニは1902年2月23日、交通事故で足の骨折という大怪我をしまいました。このとき、動けないプッチーニの身の回りの世話をするために小間使いとして雇われたのが当時16歳のドーリアでした。ドーリアはよく働く娘でプッチーニの足の怪我が治った後もそのまま小間使いとして5年ほどプッチーニ家で働いていたのですが、プッチーニの妻エルヴィーラがドーリアとプッチーニのあらぬ関係を疑いはじめました。
執拗なエルヴィーラのためにドーリアは仕事をやめざるを得なかったばかりか、悩んだ末、若くして服毒自殺。
プッチーニは生涯この娘には「悪いことをした」との思いがあったのでしょう。そのためトゥーランドットのオペラ作曲中、すぐにでも手術をしなければならないほど病状が悪化していたプッチーニですが、この「リューの自殺」のシーンを作曲するまでは頑として入院、手術を拒否したとのことです。
「リューの自殺」をかきおえたプッチーニは喉頭癌の手術をしたものの、手術後5日でこの世を去ってしまいました。


子年の次は戌年?
第2幕の第1場でピン、ポン、パン、の3大臣が「子年に6人、戌年には8人、今年は恐ろしい寅年で、もはや13人が首を落とした」と歌っています。イタリア人のプッチーニ(あるいは台本を書いたシモーニかアダーミ?)が12支までもってきたところはすばらしい調査力と思います。しかし、惜しいかな、ネズミの次はウシなんだなあ・・・。おそらくこのミスを指摘できる欧米人は少ないでしょうから死ぬまで(プッチーニの死後、最終チェックをしていたトスカニーニも)気がつかなかったのでしょう。残念でした。


カヴァレリア・ルスティカーナ