旅の思い出に浸りながら 心はいつしか 夢と現実の狭間を彷徨っていました。 夢から醒めて 窓の外を眺めると、懐かしい大地のシルエットが 眼下に拡がっています。 海岸線に沿って連なる 美しい光の帯を辿れば、この灯りの下で元気に暮らす友の顔が瞼に浮かんでまいります。 「景色見えますか?」と声をかけてくれた旅人に 黙って指差した雲の切れ目には、懐かしいふるさとの家々が 見慣れた光のカーブを描いていました。 美しく澄み切った雨上がりの夜間飛行に、心が潤った夜でした。

 

 

オープニング

遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時、
はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみ
ない宇宙の営みを告げています。
満点の星をいただく、はてしない光の海を、ゆたかに流れゆく風に心を開けば、
きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていったはるかな地平線も瞼に浮かんでまいります。

 

ミッドナイトオデッセイ(オープニング)

おそらく夜を飛ぶのではなく
夜が二人の中を飛行していく時間があります
それは描くことの出来ない映像、語ることの出来ない言葉
音楽のような「ナイトライフ」
あなたがそこにいること、そして私がここにいることで始まる
果てしのない旅ウィークエンドの夜は今離陸したばかりです…

オープニング(小野田ver)

今日もまた、世界のどこかで旅立つあなたのために。
花花のつぼみが深呼吸をはじめ、
木々たちは心地よい木陰作りの準備を始める。
そう、あの街角や公園の光や風にもう一度会いたくて。

旅立つために、あなたは今静かな興奮につつまれた
充実の時の予感の中にいる。


 

「夕暮のデロス」 (MICONOS)

 「ミッコノース、ミッコノース」と桟橋で船頭さんの娘が
 可愛い声を張り上げている。
 夕暮のデロス島でお客さんがもう渡し船に乗って
 ミコノスに戻る時刻だというのだ。
 乗遅れたらこの無人島にひとり残されて、ユリジーズの夢を
 見ることになるだろう。
 廃墟の床を飾る獅子のモザイクの上で月明かりに照らされながら
 この島の主であるトカゲの群れに食われて命果てるかもしれない。

 

「サン・マルコの恋人」(SAN MARCO)

 ベニスのサン・マルコ広場で
 夏が、海風に吹かれ、
 広場にテーブルを出した、幾つものレストランが
 生バンドを揃えて、客引きに余念がない。
 夏の消息が、入り乱れ、
 寺院の庇に、どっさり人が登って、見ているので、
 広場の人々は、意識過剰になっている。
 似顔絵のモデルさながら
 レストランのテーブルで気どっているご婦人の所へ。

 カメリエーレが、粋な知らせを運んで来る。 
 行きずりの男女が
 まことしやかなゴンドラに乗って行く町のことだ。
 夏化粧を塗り重ねて
 恋のふりをすることなど、何の造作もありはしない。

 

「白鳥の城」(THE SWAN CASTLE)

 チロルの山々から、ババリアの野へ舞いおりてくる雪が、
 山裾の盆地を満たし、山腹の白鳥の城を見上げている頃だ。
 山の頂へワイヤーをかけたロープウェイが、
 雪の断崖へゴンドラを引き上げているだろう。
 夏には見捨てられていたロープウェイがスキー客を集め、
 夏には恋人たちを集めた山間の小道が、雪に埋もれている。
 そんな季節のことだ。
 満月の夜には馬橇を走らせてゆく夢見ごこちの人がいて、
 カンテラの明かりが鈴の音と共に揺れながら、
 遠ざかっていったものだという。
 降る雪とともに語り伝えられて、
 誰知らぬ者もない白鳥の城の主人のことなのだが・・・。

 

「パリのめぐり逢い」(Live for Life)

 外套の襟を立てた人の
 猫背の上のパリの空が暗い。
 サン・ジャック通りの坂道を登り乍ら
 石の町が表情を堅くしているのを感じ、
 人恋しさが
 公園の落葉のように積もる秋が深い。
 ブール・バールのカフェのガラス越しに
 往き交う人の姿でも見ようか。
 籐の背もたれの軋みを聞き乍ら
 鼻先にコーヒーカップをもたげて、
 そのぬくもりの中に、全身をひたしてしまうことができれば・・・。
 たった今
 同じ色の秋を迎えた友がいて、
 めぐり合う心のカードが丁度対になって
 いつまでもテーブルの上に積み重ねられていくような、
 そんな時間がほしくてたまらない。
 秋が深くなる。

 

FROM THE COLOSSEUM WALLS コロッセオの落書き 

愛される事に慣れて,老いを忘れた町か,ローマ..
コロッセオのアーチにしるされた落書き
日付入りの無数の頭文字は
彼女が受け取った恋文のほんの一部に過ぎない。
旅人の片思いに微笑み続けてきた美貌は,
二千年を生きぬいて,尚も求愛の言葉を聞く用意がある。
町に溢れた捕らわれ人の歌は
彼女の永遠の春の賛歌のようだ。

 

夏の日のローマ」

ベネト通りに,熟れた夏の日のローマ
糊の効いた白い上着が誇らしげなカメリエーレも
南欧のワインに酔いながら,
歩道の赤い日除けの下のもてなしに忙しい。
道は遥か海の彼方から,古都の花道に至り
夏の旅を集めて,綿雲の胸を打つ鐘が鳴っている。
.....それから,尚もそれから
日が暮れて夜が更けるまでの長い時間
ズボンの折り目が気持ち良く通った伊達男たちや
大きく開けた胸元に,自信ありげな娘たちが
気の効いたおしゃべりと飲み物を交わしにやってきて
甘やかな香水の香りを,幾重にも重ねてゆくのだ。
さながらそこが,夏の宴の通り道でもあるかのように

 

白夜の恋 (A WHITE NIGHT)

デンマークの森のサマーハウスで、白夜の恋が眠ろうとしない。
寝室のカーテンに透けている戸外の明るさは、
飲み残しのワインが薫る部屋から、時間を消し去っている。
恋人たちはまた服を着て、花咲く夜の道へ出て行くだろう。
白絹をかけて、遠く白い眺めはまばらな針葉樹の丘の向こうに、
湖の光沢を覗かせている。
白夜送りのかがり火が燃える野もあるだろう。
火を放たれて、湖に置かれた筏もあるだろう。
その赤い火が、白絹の一点を焼きつくして恋人たちの胸に燃え、
北国の多産な夏を祝うというものだ。

 

夢のつづき (The Dream I Dream)

霧の朝、白い夢のつづき。
窓ガラスのくもりを払っても払っても、乳色の風に町は輪郭をなくし、
手さぐりで木靴をはく恋人に帰る道がない。
教会の鐘の音に促されて恋人を送ってゆく白い道に、
散り敷いた落ち葉が露に濡れ、霧につつまれた道行きを見とがめる人もいない。
別れぎわの抱擁すらも、あれは夢の中の出来事であったのだろうか。
遠ざかる木靴の音が、重く胸に響いたことは、ハッキリと覚えている。

 

空にかける想い (Journey to The Stars)

日が落ちて、空がゆるやかに目を閉じる。
大目蓋の裏の星座に見とれて、私は目ざめている。
思えば、生きている不思議だとか、時間だとか・・・。
星は心の海を旅する大航海の道しるべだ。
誘惑の数に等しく、到達不能の距離を置いて、多感な船を走らせる。
楽しくも哀し。
片思いの船は、暗い海図の上を彷徨っていくばかりで・・・。

 


 

エンディング

夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは
遠ざかるにつれ次第に星のまたたきと区別がつかなくなります
お送りしております、この音楽も美しく、あなたの夢に、溶け込んでいきますように
 

 

1994年12月30日 7387回目 城達也さん最後の放送

25年間 私がご案内役を努めて参りましたジェットストリームは
今夜でお別れでございます。
長い間本当にありがとうございました。
お送りしておりますこの音楽が
美しくあなたの夢に溶け込んでゆきますように
では皆様 さようなら

この二ヵ月後、1995年2月25日 城達也さんは永眠されました。