宗教画理解の手引き


 

第二章 宗教画基礎知識

聖書
聖書はキリスト教の根本聖典であり、旧約と新約から成っている。

旧約聖書(Old Testament)ヘブライ語で編纂
旧約とはユダヤ人の先祖であるアブラハムやモーゼなどを通じて、神が人間と結んだ古い約束・契約。旧約聖書は、もともとはユダヤ人の聖典。ユダヤ人はイエスを神の子とは認めない。したがってユダヤ人にとっては、聖書といえば旧約聖書を指す。
旧約聖書は創世記からマラキ書に至るまでの39の「書」から成る。(ヨブ記、詩篇、イザヤ書など)それぞれの「書」は一個の独立した物語となっている。

新約聖書(New Testament):ギリシャ語
神のひとり子イエス・キリストを仲立ちとして神が人間と結んだ新しい約束・契約。バイブルとはエジプトの特産品パピルスを扱う港町、フェニキアのビブロスが語源。

教会は入口は西、祭壇は東が基本
朝日は東から昇ってくる。その光を受けてステンドグラスが美しく輝く。神が天地創造の最初に「光あれ!」と叫んだ聖書の記事を、朝の礼拝に参列した信徒らが実感するようにという効果も狙って、多くの教会は、祭壇を東に向けて作られている。

例外=バチカンのサン・ピエトロ寺院は、西側が祭壇で入口が東。
しかしできるだけ教会は祭壇を東が建築の基本である。

入口が東を向くサン・ピエトロ寺院

ラテン十字とギリシャ十字
ギリシャ十字は縦横の長さが同じで、赤十字のマークやスイスの国旗などがそれ。
プロテスタントは偶像をきらうから、教会の祭壇にもラテン十宇のみを掲げる。
カトリックでは、しばしば、この十字にキリストが磔つけになっている。

バシリカ(BASILICA)
古代ローマで集会場や商取引、裁判などに使われた長方形の建築物で、
ギリシャ語の「王の家」
を意味する。

四角形・円蓋集中方式(CUPOLA)
バシリカが長方形なのに対して、円形、四角形、六角形などにまとめられ、普通中央に丸屋根(クーポラ)を持つ。東方世界で多く好まれ、エルサレムやギリシャなどで盛んに建造された。いわゆるビザンチン様式の基本。その最大のものはイスタンブールのアヤ・ソフィア寺院

世界最大のクーポラを持つアヤ・ソフィア寺院

モザイク(MOSAIC)
ビザンチン建築に多く見られる内部装飾で、天然の鉱石やガラスを細かく刻んではめ込むところから、
色があせず、「永遠の絵画」といわれる。

ロマネスク(ROMANESQUE)建築=ローマ風の
ローマが開発した半円形のアーチを基本に、石材を使って、がっしりとした、しかし内部は部厚い壁に囲まれて暗くうずくまったような感じの教会建築。壁画で装飾
因みに、アラベスクとは「アラビア風の」の意味。

ゴシック建築(GOTHIC)ゴート(ゲルマン)風
ゴチック時代ではアーチを交差させて柱に天井の重みを配分し、その分壁を薄くして窓を開ける余裕ができた。そこヘカラフルなステンドグラスをはめ込んで神の家の荘厳さを表現した。

フランスの三大ステンドグラス

紫の美=ノートルダム寺院

北のバラ窓

南のバラ窓

赤の美=サント・シャペル

王室専用チャペル 二階の礼拝堂

青の美=シャルトル大聖堂

フレスコ画(FRESCO)
新鮮な(フレッシュ)の意。この画法は壁が乾かないうちに顔料を塗って壁の完成と共に絵も完成する、という時間との勝負が要求される。

テンペラ画(TEMPERARE)
卵やハチミツ、牛乳という食べものを絵の具の溶剤として使った「おいしい絵」
ラテン語TEMPERARE=練り合わせるが語源

天使(ANGEL)
ギリシャ語のANGELOSから来た言葉で、英語のMESSENGERの意。神と人間の仲介者。
ギリシャ神話の再生で、天使はキューピッド(愛の女神ビーナスの使者)とかなりー体化したが、本来の天使はレッキとした男性。
ガブリエル(GABRIEL)はマリアに現われてイエスの誕生を告知した他、マホメッドに現われて、イスラム教の開設をうながした。

ミカエル(MICHAEL)は悪魔と戦う天使。城や聖堂の守護聖人。キリスト教としてヘルメスの役をそっくり引き継いだのが大天使ミカエル。翼を持って天空と冥界を翔け、神の使いを努め、最後の審判のときには死者の魂を秤にかける役をする。神の使いとして天から飛来するミカエルは、地上高く聳える場所に降り立つ。
アドリア海のモンテ・サンタンジェロ

キリスト教ではガブリエル、ラファエル、ミカエル、ウリエルが四大天使とされる。

モンサンミッシェルの威容

INRI
ナザレのイエス、ユダヤの王
Iesus Nasarenus, Rex Iudaeorum

偶像崇拝
キリスト教の母体になったユダヤ教は、昔から偶像厳禁の宗教であり、今でもそれを固く守っている。金や石などで造った像を神として拝んではならないという戒めは、旧約聖書に繰り返し出てくる。キリスト教も最初は偶像厳禁であったが、形あるものを拝みたいという人間の自然の欲求に妥協する形で、信者が偶像を拝むことを黙認するようになった。

カテドラル
司教が在住している教会をカテドラルと呼ぶ。したがってカテドラルは各司教区に一つしかない。司教区の下には多数の教区があり、それぞれ教区教会があって、司教がいる。司教は独身が建前であり、たとえ子がいても、父から子へと地位を継がせることは出来なかった。

チャペル
チャペルには二種類ある。
一つは城、宮殿、病院、学校などの内部に設けられ、主として部内者が使うための礼拝堂である。
もうひとつは、大きな教会の内部に区画を設けて造られたチャペルである。側廊に沿って複数が並んでいる場合が多い。礼拝堂というよりは礼拝室。

双頭の鷲
モスクワ大公イワン三世はビザンチン最後の皇帝の姪ソフィアを妃に迎え、正教の首長としてのビザンチン皇帝の法統を継ぐと称し、皇帝(ツァーリ)の肩書きや、ビザンチン皇帝の「双頭の鷲」の紋章を使い始めた。

イコン=ICON
イコンとはキリスト、聖母、聖人などをいたに描いた聖画である。ギリシャ正教の教会には、立体的な偶像はまったくない。イコン、壁画、モザイクのような平面的な図像ばかりである。