写実派・自然派を経て20世紀へ
19世紀後半にはロマン主義も退潮し,今度は自然や身の回りをありのままに描こうとする写実主義の時代を迎える。イギリスのターナーは,詩情豊かな風景画を数多く描いたことで名高い。またフランスではコローやミレー,クルーベが登場した。ミレーは傑作「落穂拾い」に見られるように,社会の支配層ではない,農民や労働者の姿をテーマに取り上げている。
写実主義の流れを受け継ぎつつ,これに続く印象派の先駆となったのがマネやドガであった。マネには,カフェや娼婦など近代の都会生活を描いたたくさんの名作がある。ドガも踊り子や労働者を好んで主題に取り上げている。ルノワールには裸体画が多い。印象派で最大の画家といわれるのはモネ。1874年にモネやセザンヌ,ドガ,ピサロらが開いた展覧会で「印象派」という言葉が使われて以来,モネがそのグループの中心であった。
印象派の流れはセザンヌを出発点とする後期印象派と呼ばれる一団に受け継がれる。西洋文明を嫌って南太平洋の島に移り住んだゴーギャン,強烈な色彩によって感情を表現したオランダのゴッホなどがこれに属する。独特の点描技法で知られるスーラなどもこの流れを継承している。20世紀初頭のヨーロッパ絵画ではまず,原色で大胆に表現するゴッホの影響を受けて強烈な色彩を駆使する「フォービズム」が興った。主要な画家としてブラマンク,マチスなどがいる。これに対し,絵の構成・形態そのものを変えてしまおうとする「キュービズム」があり,ピカソはその代表的な存在であった。大作「ゲルニカ」はナチス・ドイツがバスクの小村,ゲルニカを無差別爆撃したことに抗議して描いたものである。
19世紀末期には,「アール・ヌーボー」はじめとする多彩な芸術工芸運動が,ヨーロッパで巻き起こった。産業技術の発展と大量生産システムがもたらした画一性を打破し,新しい美学を求めようとする試みで,影響が及んだ分野は美術・デザインから建築・ポスター・挿絵まで広範囲に渡る。先駆となったのはイギリスの美術・工芸家,モリスであった。ベルギーのオルタ,ヴァン・デ・ヴェルデ,フランスのギャレ,オーストリアのクリムト,スペインのガウディなどが代表である。
アール・ヌーボーは20世紀のモダンアートの起源だったとも位置付けられている。モダンアートが開花するのは1920年代,30年代になってからで,シュールレアリスムやアール・デコなどが生まれた。幻想的・無意識的世界を追求したシュールレアリスムではエルンスト,ダリなどの名が知られる。アール・デコはアール・ヌーボーに続くスタイルとして後年名付けられたもので,1920年代から急速に広まる映画・ジャズからファッションに至る大衆文化・ライフスタイルを指す。「シャネルの五番」もT型フォードもこの時代の産物であった。
|