それは私が海軍予備生徒の頃のことであった。
学徒出陣で、私たちは学窓を飛び出し、
海軍の軍人として、故国の窮を救わんと
雀躍として訓練を始めてから数ヶ月経った頃であった。
私はその頃、三重の海軍航空隊で基礎訓練の最中だった。
毎朝5時に起床。それ以来、夜の9時半の就寝まで、
私たちの行動は一切スケジュールによって縛られていた。
朝まだ眠いその最中、拡声器が「総員起こし5分前」を告げる。
もうその予告を聞くと、私たちは唯一の安楽地たるベッドの中から
飛び起きる準備をしなければならない。
そしてラッパ・・・「総員起こし」
このラッパが鳴ってから1分以内に5枚の毛布をきちんとたたみ、
着衣して寝室を出なければならない。
分隊長、分隊士は寝室の外でストップ・ウォッチを持って待ち構えている。
「50秒・・55秒・・待て!」
1分以内に全てを終了して部屋を出終わらないものは、
「待て!」の号令一下その場に釘付けにされる。
もちろん彼らは適当なる制裁を受けることは言うまでもない。
このようにして一日一日が始められた。
そして全てはその調子で、号令、号令に追い回されて一日が終わった。
9時に「温習」という自習時間が終わり、それから20分間掃除。
9時25分に「巡検5分前」の号令が掛かる。
その時には全ての者がベッドを伸べて、床に入っているのである。
そして私たちにとって最も楽しい自由な時間は、
この巡検15分前から巡検5分前までの10分間であった。
ある者はベッドの横の者と雑談をする。
ベッドから抜け出て、5〜6人車座になって、しきりにトランプらしいものをやったりする。
腕相撲をやる・・・トランクから写真帳を出して眺める・・・
全てが自由であった。
隊長も分隊士もこの5分間は何も言わない。
それどころか一緒になって冗談を言ったりもする。
こんな時間であった。
ある晩の事である。
いつものように皆んな一日の訓練の激しさに
へとへとになって各自のベッドを伸べていた。
そして拡声器はいつものように「巡検5分前」を告げた。
するとその時、いつも切られる拡声器のスイッチはそのままに、
レコードを掛ける針の音が聞こえ出した。
そして次に聞こえた音は・・・・
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